弦高が適切であること
適切な弦高が保たれているということは単純ながらとても重要なことです。
良い演奏をするためには右手だけでなく左手の脱力も欠かせません。弦を押さえる指が音の芯をとらえる最小限の力を意識せよというのは、素晴らしい演奏をするプロが学生にレッスンをしている際などにほぼ毎回聞く内容です。
弦高が高すぎればそれだけ左手に余計な力が要求され、それは奏者の上達と自由な音楽表現を妨げる大きな壁となります。したがって常に弦高を適切な高さに保つというのは良い奏者になるための必須条件だと思います。
特にナット側の弦高が高すぎると、ハーフポジションや1stポジションを押さえるのに異常な負荷がかかるので、チェックしておいたほうがよいポイントです。指板のナット側の端と弦との間の空間は紙一重で十分です。名刺を各弦と指板の間に入れてナットに当たるまで上に滑らせ、手を離したときに名刺がストンと落ちてしまうようなら明らかにナット側の弦高が高すぎる状態です。
駒側の弦高は、クラシックをオーケストラで弾く場合、G線で6,5mm~7mm、E線で8,5mm~9mm程度が適切だと思います。ソロで弾く場合はG線で5,5~6,0mmまたはそれ以下にする奏者もいます。
ただし、ナット側にしても駒側にしても、適切な弦高に調整するということは指板が適切に調整されていることが前提ですので、弦高の調整と指板の状態はセットで考えるということが大切です。指板がでこぼこな状態で弦高だけ正しく調整しても、弦が指板に当たってバチバチと音を立てる可能性が高いです。ただ金銭的にどうしても指板修正を頼めないという方は、仮に指板が正しく調整されていなくても、高い弦高で体に負担をかけて弾くよりはバチバチと音を立てながら弾いたほうがよいと、個人的には思います。それくらい弦高は大切だということです。
さて、弦高を適切な高さに保つと言うと当たり前なことを言っているように思われるでしょうが、これが達成されていないコントラバスは山のように存在します。どちらかと言えば弦高の高すぎる楽器が多いです。どんな原因が考えられるでしょうか。
- もともと高い弦高でセットアップされている。
- 気候の変化。
- 駒の位置が指板側に移動する、または駒が指板側に反る/傾く。
- 指板を削った修理のあと、ナットと駒の調整が行われていない。
一般的に考えられるのはこれくらいでしょうか。
1については特に書くことがありません。安い楽器を買ったなら一度コントラバスに詳しい職人に点検してもらうのをおすすめします。
2の気温の変化について
ヴァイオリンなどの弦楽器の材質と構造上、弦高は夏になって気温や湿度が高くなると高くなり、冬になり空気が乾燥してくると低くなります。コントラバスともなると楽器のサイズが大きいのでこれによる弦高の振れ幅も大きいです。楽器や保管状況などにもよりますが、夏と冬で2mmほども変わってくることもあります。四季のある日本でコントラバスを弾くならアジャスターを取り付けるのが一番手っ取り早い解決策かと思います。
3の駒の問題について
駒自体が指板側に移動する、または駒が指板側に反ったり傾いたりすると、駒の高さはほぼ変わらずに指板の端と駒との距離が縮まりますから、当然弦高は高くなります。演奏やチューニングによって駒は頻繁に指板側に引っ張られているので、駒の傾きや反りは避けられない問題です。自分の楽器の本来持つ弦長を奏者もしっかりと把握し、弦長が変わってきたと思ったら何かしら楽器に歪みが出ている証拠ですのでメンテナンスに出しましょう。
4について
ほとんどないことだとは思いますが、指板の削り修正を行った際は当然指板のナット側と駒側が削った分だけ低くなりますから、相対的に弦高は高くなることが多いです。(部分的な修正の場合は指板両端の高さが変わらないこともあります。)指板の修正を頼んだらナット調整と弦高調整が見積もりに入っていないなんてことがあれば、念のため確認するのがよいと思います。
いずれにせよ、コントラバスは定期的にメンテナンスを行うのが大切だということです...
今回も長くなってしまいました。次回はネックの長さについて書こうと思います☺