駒の高さとカーブ、楽器のC部の形状が右腕の自然なボウイングの動きを制限しないこと
タイトルは少し小難しいことを言っているように聞こえますが、要はボウイングの際に弓先が楽器のC部やコーナーにぶつかったり、他の弦を一緒に弾いてしまうことのないようなバランスが大切だということです。
このバランスをクリアするためには、
・楽器のC部に十分な空間的余裕がある
・駒の位置と高さ、カーブが適切である
・ネックの角度が適切であり、かつ歪みなくまっすぐに入っている
上記3つの条件が達成されていることが大切です。
C部の形状については製作段階で決められており、修理や調整による改善の余地がないのでここでは説明を割愛します。大切なことではあるのですが、他の条件が全て整えられてさえいればよほど変な形状でない限りはこれが原因でボウイングに支障をきたすことは少ないと思います。
特に重要なのはネックの角度と駒の高さ、カーブです。
・ネックの角度と駒の高さについて
適切な弦高で駒の高さを出すためにはそれに見合ったネックの角度が必要なので、駒の高さとネックの角度はセットで考える必要があります。ネックの角度を説明する際は専門用語でprojection height (プロジェクション・ハイト)と呼ばれる数値を用います。指板を延長線上に投影(project)した場合の駒の立っている位置での表板からの高さのことを言います。
このprojection heightの数値が大きいほどネックの角度が大きく、逆に小さければ角度が浅いということになります。また、コントラバスの場合でprojection heightの数値におおよそ10~15mm足した数値が最終的な駒の高さになります。
ネックの角度が浅すぎる(駒が低すぎる)と、G線を弾いたときに楽器のC部やコーナーに弓の先端をぶつけてしまったり、E線H線を弾いたときに腕が自分の体に当たってしまって弾きにくいなどの問題が生じます。逆に角度が大きすぎる(駒が高すぎる)と演奏面では支障ありませんが、弦の張力から駒を通して垂直方向に表板にかかる圧力が大きくなってしまうため、適切な角度でネックが入れられていることが重要です。
楽器のサイズやセッティングによって適切なネックの角度も様々なので一概には言えませんが、駒の高さがおおよそ160mm~180mmの範囲であれば正常であると思ってよいと思います。
・駒のカーブについて
駒のカーブは各弦を弾いたときに他の弦に干渉しないだけのマージンを確保することが重要です。
4弦楽器の場合、カーブが緩ければG線とE線は弾きやすくなりますが、D線とA線を弾くと隣の弦と干渉しやすく弾きにくくなります。逆にカーブがきつすぎるとD線とA線は弾きやすいですがG線はより遠く、E線は窮屈になり弾きにくくなります。
4弦の場合はこのカーブの調整はあまりシビアではなく、良い塩梅のカーブをつけてやるだけなら簡単な調整なのですが、ややこしいのは指板のカーブと駒のカーブがあっていないときです。よくあるのは指板の駒よりの端のカーブが平坦な場合なのですが、指板のカーブに弦高を合わせると駒のカーブも平坦になり弾きにくく、指板のカーブを無視して駒のカーブを適切に調整するとD線とA線の弦高が高くなってしまいます。
こういうとき、どちらかといえば駒のカーブを適切に調整することを優先することが多いのですが、あまりに指板が平坦な場合は必要最低限のマージンをとった上で駒のカーブを少し緩めに調整した方が良い場合もあると思います。D線とA線の弦高だけ高いと、それぞれの弦を同じ位置で押弦した際の音程間隔も狂ってきてしまうし、ハイポジションにいけばいくほど弦の沈み幅に差が出て弾きづらくなってしまいます。
もちろん、可能であれば指板のカーブも修正するのがベストです。
5弦楽器の場合は駒のカーブの調整がかなりシビアになります。少しでもカーブをつけすぎてしまうと特にH線が非常に弾きにくくなってしまうので、D線とE線を弾いたときに弦の干渉がないようなぎりぎりのラインを攻めることになります。4弦の場合は真ん中が少しだけ尖った三角っぽいカーブの駒が多いですが、5弦で同じようなカーブにするとA線が高くなり、他のすべての弦も弾きにくくなってしまうので注意が必要です。
・駒の位置について
駒の位置が原因でボウイングが制限されることは他の要因に比べれば少ないのですが、あまりにも左右に寄っていたり、楽器下部のコーナーを結んだラインに近いような位置に立っていたりすると、特にG線を弾いたときに弓先を楽器にぶつける要因になります。
左右のずれに関しては、一見中心に立っているように見えてもネック自体が傾いていて、それに合わせてセッティングされていることも多いので、違和感を感じるようであれば点検してもらった方が良いです。
今回は駒やネックの角度、駒のカーブなどとボウイングの自由度との関係についてのお話でした。
写真のような傷、よく見ますよね。
演奏技術が未熟な故に弓をぶつけてしまうということももちろんあるのですが、それ以前に楽器の問題がある可能性も大いにあります。
コントラバスという楽器はその大きさですでに演奏が難しい楽器であり、その困難を軽減するために様々な工夫が施されているところがまたこの楽器の面白いところだと思うのです。
今回のテーマ以外にも様々な工夫がありますので、また別の記事でも紹介したいと思っています。